ほとんどの人は、経済記事を
データは正しいし、なんかいいこと言ってるんで、
すべて正しいことが書いてあるんだろう(*'-')
と受け身の姿勢で読んでしまっている気がします。
しかし、
「この記事は、ここが正しくて、ここは間違ってるな」
という読み方ができないと、データが正しくても結論を間違えてしまいます。
経済記事を読むときの注意点
今日は、「データやグラフに惑わされていないか?」
という点に注意して読みたいと思います。
データやグラフに惑わされていないか?
私は元ソフトウェア開発者だったので、仕事でデータやグラフはよく使いました。
ただし、それはあくまで目に見えない問題を少しでも
可視化したいためです。
つまり、データやグラフは、現実の一端を切り取ったものであり、
その裏にある現実世界の問題を読み取ったり、
様々な事象の繋がりを予測したりすることが重要です。
しかし、人間はデータやグラフといった明確なものを提示されると
複雑な現実から目を逸らしてしまう傾向があります。
そうなると
「データやグラフが世界のすべて」のような見方をしてしまい、
解決策を誤ってしまうのです。
デービッド・アトキンソン氏の記事を読み解く
ちょうど参考になる記事があったので、
今回は、デービッド・アトキンソン氏の記事を読み解いてみます。
この人は、たまに良いことも書いてるので、
記事を見かけると、そのたびに読んでいるのですが、今回の記事ではどうでしょうか。
この記事の提言としては、
- 日本は人口が激減する。※下記のグラフ参照
- だから生産性を上げないといけない。
- 消費も減るのだから企業数を減らさないといけない。
といったことが書かれています。
さて、この解決策は正しいか?
結論から言うと、
完全な間違いなんですが、
一つずつ見てきたいと思います(*'-')
人口の推移から読み取れる現実の問題
提言の元となっているのが下記のグラフです。
う~ん。やはり、この記事でも
「データやグラフが世界の全て」に囚われてしまっているようです。
このグラフは、
「
仮に現在の出生率のままだと、この先こんな推移になってしまいますよ」
というものです。
そして、日本の出生率(2015 年時点で 1.46)は、健全な数値ではありません。
つまり、このグラフの裏にある現実の問題は、
特に若者たちが結婚・出産できないほど貧困化している
ということです。
これを解決して、未来のグラフの形を変えていかないといけません。
なのに、なんでその問題を放置して、
このグラフがこのまま推移する前提で議論を進めてるのさ!ε=( ̄ロ ̄メ
アトキンソン氏は、
現実よりデータに目線が行ってしまっているわけです。
賃金上昇圧力
記事の
3 ページ目では「新卒採用が難しくなる」ということを問題視しています。
はたして、それは
本当に問題なのか?
賃金の話をする前に、まず
インフレ圧力と
デフレ圧力について。
左の状態だと
物価上昇圧力がかかり、右の状態だと
物価下落圧力がかかります。
そして、これを賃金に当てはめてみます。
要するに、
人手不足とは
賃金上昇圧力なわけです。
逆に、デフレでは「人余り」になりやすく(失業率が高くなりやすい)、
労働者は安く買いたたかれます。
あれ?じゃぁ、人手不足って、
少子化の原因である「若者の貧困化」を解消する圧力になるんじゃない?(*'-')
その通り。
日本の都道府県別失業率(17年10-12月期)
人手不足が深刻な地方では、労働者にとって嬉しい環境になりつつあります。
島根県では、
高卒でも正社員になれるそうです。
そして、このときに、やってはいけない政策が 2 つあります。
- 労働者を増やしてしまう。(移民受け入れ)
- 企業の数を減らしてしまう。(アトキンソン氏の提言)
「労働者 > 雇用」の状態に戻してはいけないのです。
供給を削った世界恐慌期のアメリカ
アトキンソン氏は、
GDP を維持するために企業数を減らせ、と提言しています。
これは、現実の世界では正しい解決策になるのでしょうか?
もう一度、「インフレ圧力とデフレ圧力」の図を見てみます。
今はデフレ(図の右側の状態)なので供給を削れば、
デフレギャップは埋まるように見えます。
ただし、それは
「データやグラフが世界のすべて」であればの話です。
現実の世界では、供給を削る(企業数を減らす)と、
需要も減ります。
なぜなら、供給側(企業)にいた人は、需要側(消費者)でもあるからです。
失業したり、給与を減らされたりしたら、消費を減らします。
むしろ、
デフレは酷くなります。
そして、実際にこれをやってしまった国があります。
世界恐慌期のアメリカです。
このときアメリカは、失業率が跳ね上がり(3.2% → 24.9%)
4 年間で GDP を 30% 近く下げてしまいました。
聞けば、極当たり前の話なんですが、
「データやグラフが世界のすべて」になっている人には、
分からなくなってしまうのです。
アトキンソン氏は、数字を見るだけでなく
近代史(現実世界で何が起きたのか)を勉強すべきですね。
生産性向上と企業数
記事内でアトキンソン氏は、
「生産性向上」を訴える一方で
「就業人口が減るから企業数を減らせ」と言っています。
待ってくれ。
生産性向上というのは、一人当たりの生産量を増やすって意味ではないのか?
ということは人口が減っても企業数を減らす必要なんかないんじゃないか?
少ない社員数でも生産量を維持すれば、それが生産性向上です。
それを目指せと提言すべきでは?
「生産性向上」がバズワード化してしまい、
「生産性向上とは、少ない人数で今まで通り生産活動を行うこと」
という現実を完全に見失っています。
大企業ばかりになった韓国
記事ではさらに「規模の経済」を取り上げて、
企業を統合して大企業化していけ、と提言しています。
そもそも、「規模の経済」が成り立たない分野もこの世界にはあるんですよ。
(→「ソフトウェア開発は開発規模に注意」)
ということは、今日は脇に置いておきましょう。
実際にこれをやって、失業率を上げてしまった国があります。
韓国です。
韓国では、
財閥系の企業が GDP の 7 割近くを占めるまでに至っています。
その結果、こうなりました。
合成の誤謬(ごびゅう)
なぜ韓国は失業率が上がってしまったのか?
大企業化すると「規模の経済」が働き、生産性があがる。
たしかに、そうかもしれません。
ただし、それはミクロ経済の視点での話です。
ミクロ経済とマクロ経済の間には、「合成の誤謬」が働くことがあります。
「合成の誤謬」とは、
ミクロな視点では合理的な行動が、マクロな視点では不合理な結果を生む。
というものです。
企業を統合していくと、上の図の右側の状態になっていきます。
なんせ、大企業は生産性が高いですから、
生産量のわりに、社員をそれほど必要としなくなってきます。
国中の企業が統合してしまったら「合成の誤謬」の発生です。
企業統合は、企業(株主や経営者)にとってはいいことかもしれませんが、
国家全体、そして労働者にとってはどうでしょうか?
・・・言うまでもないですね。韓国が実証してくれています。
日本は 20 年デフレ(これはこれで情けない)ですが、
失業率は、欧州や米国ほどではありません。
それは、
中小企業という受け皿があったからに他なりません。
企業数を減らすなんてことをしてはいけいないのです。
今日のまとめ
- 人口推移の予測のグラフは、若者が結婚すらできないほど貧困化している、
という現実の問題を示している。
- この問題を解決するためには人手不足はよい環境。企業数を減らしてはいけない。
- 企業統合は企業(経営者や株主)にとっての政策。
国民経済にそのまま当てはめてはいけない。合成の誤謬が発生する。
- 現実の世界で起きた、世界恐慌期のアメリカ、現在の韓国のことを知ろう。
データやグラフのみに注目するのではなく、
それらを通して現実の世界を見ることが大事です。
そうしないと、データや問題提起が正しくても、
物事の繋がりが見えなくなり、間違った解決策に辿りついてしまいます。
「この記事は、ここが正しくて、ここは間違ってるな」
と日本人全員が経済記事を読めるようになったら、日本経済はよくなる気がします。
(話が大きくなった・・・)
確かに、経済記事の正しい所と間違っている所を読み解けるようになった方がいい!
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